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インタビュー:by @jazz 吉川明子
ドレミさえ弾ければ大体どの楽器でも何となく演奏はできます。全てが階名で聴こえるので、どんな移調楽器であってもあんまり関係ない。典型的な相対音感なんです。絶対音感はないんですよ (本田雅人)
<サックスとの出会い> ● サックスを始めたきっかけは小学校3年生だと伺っていますが。 楽器はもっと遡って、3歳からピアノを習っていたようです。実は両親が2人とも音楽の教師なんです。田舎だったので、両親が家でピアノを教えてたりしたんですね。朝起きるといつもピアノの音が流れているような家でした。だからバイエルやブルグミュラー、ソナチネ等、譜面なしで何となく弾けました。聴き慣れている曲でしたからね。逆に中学生くらいまで、譜面を読むのが苦手でした。 小学校に入って、リコーダーを吹きはじめました。それが、我ながらものすごくうまかった。ほんと、びっくりするくらいに吹けたんです。両親はそんな僕を見て、こんなにリコーダーを喜んで吹くのなら、もう少しちゃんと楽器らしいのを与えてみようと思ったんでしょう。そこで父が担当顧問だったブラバンの修理楽器等を色々吹いてみる事に。 最初はフルートでした。リコーダーが上手かったらフルートもいけると思ったんでしょう。だけどこれが最悪!(笑)フルートって、実はとっても息が必要な楽器なんですよ。特に初心者は。まだ小学生ですから、吹いた先から立ちくらみがしちゃって、こんなの全然好きじゃないと思ってすぐやめました。 そうしたら次はクラリネットがやってきた。クラリネットも確かに形はリコーダーに近いんだけど指が全く違うんですよ。音の並びが特殊なんです。それにイライラしちゃってクラリネットもだめ。 そうこうするうちに、サックスがやってきたわけですよ。サックスって形も音色もリコーダーとはかけ離れているけど、指の動きは実は一番近いんです。それに、クラリネットなんかは繊細で音を出すところから難しいんだけど、サックスは適当に吹いても音が鳴る。小学生なんて、面倒くさくて難しい楽器より、簡単に音が出て、楽しく吹ける方が良いに決まってます。それで僕的にはサックスに決定!きっかけはそんな風でした。 ● サックスはどんな風に練習したのですか。 習う訳でもなく、とにかく好き勝手に吹いてましたね。当時、僕の家は高知の中でもかなりの僻地にあって、小学校の同級生は3人でした。 そういう田舎ってね、とにかく暇なんですよ。テレビなんて民放1局ですよ(笑) いつも家の正面の山に向かってひとりで吹いてました。ジャズなんて知らないから、郷ひろみとか、知っている歌謡曲をずっと吹いてましたね。 ● そして、中学ではブラスバンド部に入部されたんですよね。 最初は入る気なんて全然なかったんです。父親が顧問でしたし(笑)野球部に入ろうと思ってました。 だけど偶然クラスに小学校で鼓笛隊にいたヤツがいて、誘われたんです。それでなんとなくついていったら、小学校からサックスやってる人なんて当時はいなかったお陰で、入った途端に結構良いポジションで吹けたので、調子に乗ってしまったんです(笑)それまで1人でやっていたのが、仲間でできるようになった事も楽しかったですね。 <音楽の変遷> ● 高校でもサックスを続けたんですか。 高校ではフォークロック系にはまってバンドやってました。 ● それはまた随分方向性が変わりましたね。 中2の頃にギターを始めて、一時はサックス全然吹いてませんでした。高校でエレキトリックな楽器になり、当時ニューミュージックと呼ばれていた、今で言うポップスにハマり、オリジナルを作ってシンガー・ソング・ライターみたいなことをやっていました。 地元では結構な人気でね。ライブに800人も集まった(笑)町の文化センターが超満員でしたよ。コンテストにも出て、四国大会までいったんだけどちょうど期末試験と重なって出られませんでした。上手くいっていれば今頃チャゲ&飛鳥みたいになってたかもしれない(笑) その頃からとりあえず何でもイイからまずは東京にいきたいと思うようになりました。で、親の意向との兼ね合いもあり、結果として国立音楽大学を受けたんです。 ● では、サックスでプロを目指して国立に入学されたわけではないんですね。 そうですね。なにかしら音楽に関わりたいとは思っていましたが、その内容はあまり気にしていませんでした。でもさすがに大学がサックス科だったので、自然とサックスを吹く機会は増えましたね。 ● 大学では、山野ビッグバンドコンテストで初出場、初優勝、最優秀ソリスト賞を受賞という、素晴らしい業績を残されていますね。 運がよかったと思っています。それまでのビッグバンドコンテストは比較的ベーシックなサウンドを中心にしている大学が多い中、たまたま僕たちは異色のサウンドを持っていく事になったんでしょう。それが新鮮で良かったのではないでしょうかね。賞をいただいたことがきっかけでシャープス&フラッツさんに参加させていただいたり、活動の広がりはありましたね。 <才能の秘密> ● 本田さんはサックスやフルート、クラリネットなどの管楽器だけでなく、ピアノにギター、更にはドラムやヴォーカルまでできますよね。なぜそんなにたくさんの楽器を習得できたのでしょうか。 全ての楽器をきちんと演奏できるわけではないですよ。ただ、今思えば、基本的には音感の部分は、ピアノが常に流れていた小さい頃の環境が自然に育ててくれたんだなと感謝しています。 というのも、そのお陰で、大雑把に言うとドレミ(音階)さえ弾ければどの楽器を演奏するのも感覚的には同じなんですよね。全てが階名で感じるので、どんな移調楽器であってもあんまり関係ない。典型的な相対音感なんです。絶対音感はないんですよ。 ● そういう場合、モードについてはどのようにお考えですか。 僕の場合、転調したら転調した状態でドレミが聴こえます。 僕の個人的なやり方の中では、モードなんてどうでもいい感じなんですよね。イオニアンとかドリアンとかミクソリディアンっていうのは、結局移動ドのドから始まる音階なのか、ミから始まる音階なのか等の問題であって、それを使ったアドリブってなると、結局全部同じこと。オーソドックスなスケールを言葉として覚えるのは、あまり意味がないように感じます。 逆にオルタードとか、コンビネーションディミニッシュとか特殊な音階は幅を広げたければ覚えた方がいいのかもしれませんが。 ● 例えばインプレッションとか、モードでできた曲はどのように聞こえるんですか? インプレッションズなら普通に調性がありますから、そのマイナーをどう捕らえるか程度ですよね。 もっとモードが発展したようないわゆる調性の無い音楽、例えばフリージャズとか、半音階に近づいていくような音楽は本来の自分のもっている歌心とは、かけ離れてしまいます。 ただ、長年やっているので、サックス奏者としての演奏スタイルの中で、こなせなくはないんですけど、普段とは別の頭を使っているような気がしますね。 ● 本田さんはあまり練習はしないんですか。 昔はほとんどしなかったですね。今は年をとってきちゃって、体力維持のために嫌々しますけどね(笑)20代のころはほとんどしなかったです。今思えば、練習になっていたなぁということはもちろんたくさんありますけど。やっぱり1番効果的なのは本番をたくさんこなすこと。20代はとにかくたくさん本番があったので、それがよい練習になっていました。 <新しいアルバムについて> ● 今回のアルバム「SOLID STATE FUNK」は、どのような気持ちで制作されましたか。 前回のロサンゼルスで録ったアルバム「ACROSS THE GROOVE」はメロウな感じの仕上がりになっていますが、実はその時点で今回のアルバムの方向性は決まってたんです。 まずイメージとして、あえて対極的に元気にいこうと。で、全部ファンクでも良かったんですが、それだとあまりにもやかましいので、少しくつろげるような曲も混ぜました。それでも自分がつくって来たアルバムの中では一番元気な感じになったんじゃないかな。 ● 今回もいろんな楽器を使われていますよね。 そういわれるんですけど、今までの中では少ないくらいですね(笑)アルト、ソプラノ、テナー、バリトン、フルート、クラリネット。それにせいぜいキーボードやギターくらいですかね。ドラム叩いてないし。 <今後の方向性> ● 今後の方向性を教えて下さい。 やりたいことはたくさんあります。僕はあと10年もすれば60歳の手前になってしまうし、20年経てば70歳ももうすぐそこですよ。1年に1枚CDを作ったとしても、あと10枚から20枚くらいしかつくれない。そう思うと、1枚1枚を大切にしていきたいですね。 もともと僕は作品作りが好きなんです。だからこれからもいろんな作品を作っていければいいなと思います。